イディー=ジョギのはなし。 昔々。そのまた昔。 あるところにイディー=ジョギという男が居ました。 男は変な男でした。 頭はの形は変でしたが、頭が狂っていたと言う訳ではありません。 可笑しな歩き方でしたが、他の人間と行動パターンが異なっていたと言う訳でもありません。 特に興味はなかったようですが、愛するべきでないものを愛したわけでも。 小首を傾げていただけですが、100人中98人が「No!」と示す事柄を受け入れた訳でもありません。 イディー=ジョギは悪人ではありません。 イディー=ジョギは善人でもありません。 ただイディー=ジョギは、イディー=ジョギでした。 旅をしても。 家に居ても。 風呂に入っても。 目玉焼きを焦がしても。 洗剤をぶちまけても。 (もっとも、彼がそんな失態をするのは3年に一度くらいですが) イディー=ジョギはおなかに3羽の鳥の首を抱えていました。 名前はつけてやりませんでした。 だから、イディー=ジョギは上から。 「アインス」 「ツヴァイ」 「ドライ」 と呼んでいました。 ある時は上から。 「イー」 「アール」 「サン」 と呼んでいました。 またある時は上から。 ―もういいでしょう。 イディー=ジョギはおなかに3羽の鳥の首を抱えていましたが。 それも、別に変わった事という訳ではありませんでした。 3羽は3羽で、普通の鳥のように餌を貰い、囀り、眠りました。 そしてイディー=ジョギは空を飛ぶ事が出来ました。 中古でぼろぼろの羽根でしたが、イディー=ジョギには羽根もありました。 高い飛行機に乗る必要がないので、イディー=ジョギは普通の人よりも少しだけ旅行好きでした。 旅先で出会った人々に、イディー=ジョギは葉書サイズの厚紙を渡しました。 そこには、イディー=ジョギの国の言葉で葉書を渡した人の名前を書いてあげました。 そしてお返しに、葉書を渡した人の国の言葉で『イディー=ジョギ』という名前を書いて貰いました。 色々な国ではそれを喜ぶ人も、怒る人もいました。 それでも、イディー=ジョギはそれを集めました。 そして厚紙の隅に穴を開け、紐を通して持ち歩きました。 それはイディー=ジョギの宝物でした。 ある時、あるところでイディージョギは花を貰いました。 葉書大の厚紙と一緒に花を渡してくれたのは、少女でした。 イディー=ジョギはアリガトウ、と少女に言いました。 そして家に帰ると、昔の義手に穴を開け、花を持たせて紐を通しました。 それはイディー=ジョギの、少し特別な宝物になりました。 イディー=ジョギはそうして。 旅をして。 目玉焼きを焼いて。 鳥に餌をやって。 カードを眺めて。 花を見て。 風呂を沸かして。 また、次の旅に出て。 そうやって過ごしました。 今はもう、その男はどこにもいません。 特別惜しまれる訳でも、特別清々とされる訳でもありませんが。 とりあえず、イディー=ジョギはもういません。 昔々、そのまた昔の話ですから。 あるところに、イディー=ジョギという男がいました。 男は変な男でした。 けれども、とてもいい男でした。 それが、イディー・ジョギのお話です。 FIN
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